N爺の藻岩山麓通信


札幌・藻岩山麓を基地に旅するN爺のブログです(写真は原始ヶ原から富良野岳)
by waimo-dada

座りきり老人

 春4月になったが仕事がない。
 依頼者が現れない探偵事務所なら少しは絵になるだろうし、依頼者かどうかわからない美女が突然現れてドラマのひとつも始まるだろうに。
 依頼者が現れるコツのようなものを聞きに出かけようか。夜になったら、ススキノのバーにいる作家の東直己さんに。最近は映画がヒットして機嫌もいいだろうから。

 商売替えすることも考えなければならない。
 まちづくりのプランナーです、よろず評論します、なんて言ったってこのご時世、注文があるはずがない。
 ヒマなので考えに考えた。
 そうだ、老人問題の専門家になろう!
 まじめな専門家はたくさんいるのでそうでない専門家。まじめな専門家に相手にされない問題を密かに抱えている老人に耳を傾ける。そんな超専門家になって御神酒の一本もいただける身分になる。

 まずは相手の立場、立ち位置でどんな問題があるのかシュミレートしてみよう。
 たとえば。
 寝たきり老人は山のようにいるだろうが、もしかしたらこんな老人はいないだろうか。“座りきり老人”
 あんまり居心地がいいので再起不能になるのではないかと本気で心配している人が、世の中にいる。うん、絶対いる。

 早速、定年退職者のその後の暮らしを想像してデッサン。事務所のなかに再現して隣室のテディベアに頼んで体験してもらった。
 よさそう。
 次に、自分自身で体験した。
 とてもいい。けど、こわい。
 家族割の携帯電話で家人に連絡すれば淹れたてのコーヒーがやってくる。タダで(見かけは)。
 本を読んで眠くなったら椅子の前の毛布をたぐりよせればいい。
 ほんとうに座りきり老人になりそう。そのうちに根も生えて。
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 急いで立ち上がり、近くの伏見稲荷までジョキングして願掛けをした。
 「どうか、座りきり老人になりませんように」

 家に戻って、カビが生えているかもしれないレコードを取り出した。学生時代にバイトして買った、今から50年前に録音されたバッハの「音楽の捧げもの」。30年以上使っている湿式クリーナーで拭いたら、きれいに鳴った。アルヒーフの輸入盤です(高かった)。
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 人も物も座りきりになって、カビが生え、忘れられていく。
 そんなことになってはいけない。
 座りきり老人になるかもと心配している人に、さ、書を捨てて山に行こう、妻も子も捨てて旅に出よう、と声をかけよう。

 春4月、わたしの人生が変わる、か。
# by waimo-dada | 2013-04-06 21:39 | 仕事の周辺

ウソたちよ、旅に出なさい!

 快晴、微風。おだやかな一日でした。
 調べものをしていてふと気がつくと午後の3時。日に当たりたくなって、長靴をはいて裏の山に出かけます。

 ザラメ雪の道をしばらくいくと沢の水音が高くなっていました。
 小鳥の姿が目につきます。

 シジュウカラやヤマガラ、アカゲラなどいつもの住民にまじって2mほど先の朽ちた木の枝にはコゲラのつがいが。小さいけれどそこはキツツキ。カカカカ・・・と励んで獲物をすばやくゲット。その飲み込むまでの早いこと、美しい動き。

 と、ウソのつがいが現れました。
 うん? つがいなんかじゃない。うそをつくな。
 頬から喉のあざやかなピンク色で瞬時にウソとわかるのは雄です。仲のいい雄どうし。ま、この時代、そんなつがいがいておかしくはないのですが、鳥の世界まで少子化になっては森がもちません。
 ウソたちよ、嫁を探しに旅に出なさい!

 「クマゲラの丘」まで歩いて丸太の椅子に座れば、左に石狩湾、右に札幌の市街地。
 モイワ三頭山のほうでクマゲラがキョイーンとのんきに鳴いていました。
# by waimo-dada | 2013-04-05 00:53 | ライフスタイル

映画を追い、本に追われて名残り雪

 映画と本。共通するのは困ったさん。

 映画は忙しくて困る。そのうちに見に行こうなんて考えが通用しないくらいは長く生きてきたから、手帳に“見に行くぞ”マークをつける。それでもあっという間に「上映は◯◯日まで」となる。まずそうなる。
 「ゼロ・ダーク・サーティ」も「横道世之介」も「愛、アムール」も、ぎりぎりセーフのみなさまと満席のご同席でした。でも行ったかいがありましたね。

 「ゼロ・・・」はよくできたハリウッド映画ゆえに要注意。『本』(講談社)連載、高木徹(NHKディレクター)「国際メディア情報戦」の4月号「物語としてのビンラディン殺害」を読むと背景や事情がよくわかる。それもまたおもしろいだけに気がめいる。アメリカとハリウッド映画の前でわたしたちは相変わらず(ダグラス・マッカーサー将軍のいう)“少年”のままでいるのか。

 「横道・・・」は切なさという時間と人生の調味料をじょうずに使ってたのしい映画に仕上がった。で、わたしは「祥子ちゃん」(吉高由里子)のファンになった! 2012年の映画各賞で上位に入った「桐島、部活やめるってよ」の非連続的青春映画であり、この2作を通して甘酸っぱい青春とほとんど無縁ですごしたことをあらためて思い知らされた前期老人の多くは、実人生では味わえなかった青春を疑似体験できるよう取り計らってくれた若き映画人諸兄に感謝するほかありません、でした。

 いっぽう、「愛・・・」は苦しい。ハリウッドは世界規模でずるいから、絶対つくらない、つくれないこの種の映画にアカデミー賞外国語賞をさずけて、遠ざける。「おれたち、見る目はあるんだけどね」とうそぶきながら。
 それはさておき、なぜわたしはこんな苦しい映画をしまいまで見てしまったのだろう。
 それもまた映画人の力というほかない。
 なかでも気になったのは、すさまじい老醜の演技をみせる妻アンヌ役の女優さん。どこかで見たことがある。どこでだろう・・・。
 その人は「ヒロシマ、モナムール(わが愛)」でヒロインを演じたエマニュエル・リヴァだった。あの美しい女優さん・・・。

 たしか、その映画の原作は『モデラート・カンタービレ』を書いたマルグリット・デュラスによるものでなかったか。

 『モデラート・・・』は、本を捨てて今の手狭な住まいに引っ越したわたしが、自身に「それを捨てちゃなんねえ」と懸命に抗弁して残した、青春期に出会った本の一冊である。
 デュラスが描く世界は大きく動かない。しかし、能の舞台のように登場人物の一見噛みあわない対話があり、能の展開ほどではないが破局に向かって動く序破急のリズムがあるのが魅力だ。

 「愛・・・」もまた、夢幻能に似た手法でわたしたちを物語に乗せてどこかに運ぶ。そのときわたしは、恋愛小説の名手、高樹のぶ子さんの傑作『飛水』(ひすい。同じ作者の『トモスイ』『マルセル』をしのぐ、とわたしは買う)を思い、愛し合う人たちが死してなお伴にあろうとする思いの強さに、のどがつまった。
 もしもマルグリット・デュラスと高樹のぶ子の対談が実現していたら、それはそれは、命を懸けた夢幻能の世界となっていたでしょうね。いわば、どこか遠くに飛んでいきましょう合戦。

 さて、本は映画とちがって急がない。まして、図書館で借りて読めば家人の冷たい視線を浴びなくてすむ。世界と家になんの問題も生じない。
 しかし、本の多くは非常識だから世界の向こうから突然やってくる。常識の世界に生きるわたしたち一般人は、そんな超越的存在に抗する知力も気力も持たないので受け入れざるをえない。
そして今日もやってきた。

 『山本容子のアーティスト図鑑 100と19のポートレイト』(文芸春秋)は、佐々木譲さんの『図書館の子』(絵:蒲原みどりさん)と同様、買って手元に置く本。
 『魯迅の言葉』(平凡社)は先日、「世界で最も美しい本」コンクールで銀賞に輝いたと知って急きょ発注し、入手した。
 数年前に上海市の魯迅記念館を訪ねたとき、中国の人々のなかに魯迅さんが今も生きていることを肌で知ったと思う。しかし、それは魯迅公園で遊興のときをすごす大多数の中国人と魯迅さんの関係にそのままつながるものではない、とも考えた。

 ま、むずかしいことは、中央図書館から借りてきた「山ねこ」に喰わせて。
 JRタワー10周年記念「宮沢賢治」展の収穫は、賢治さんにほれて絵本の絵を描こうとした人がこんなにいたんだ、という発見でした。
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# by waimo-dada | 2013-03-29 22:07 | アートな日々

春の気配がします。シマツにしてますか

 チッキひとつで北海道にやってきてまもなく45年になります。
 少しがんばって家ふたつ、墓ふたつ持つプチブルになりましたが、いくらか思うところがあって家や墓地を整理して、15年前にいまの中古低層集合住宅に移り住みました。サイズ的には91㎡÷125㎡=0.728に減少、経済成長の尺度でいえば−27.2%もの下落。
 これにともない事務所兼書斎のサイズは7.64㎡に。いくらはかっても4.6畳で、6畳にはなりません。
 泣く泣く本を処分し、着ないものを生協主催の海外寄付に委ねました。
 もともと母親譲りの始末屋でしたから小さく暮すのは得意ですが、本にはいまも苦しんでいます。

 足と知恵を使って問題の解決に挑みます。探し求めたすき間用家具の本棚は、いつの間にか家人が暮らす居間の一部を侵略しています。広辞苑のとなりは地図帳などを横にして突っ込んでいるため落ちやすいので、無印良品で買ったアクリルの仕切り版で支えています。
 ぬいぐるみの山羊のユキちゃんが占領しているのは集英社の国語辞典。この辞典は漢字辞典を兼ねるすぐれものです。
 なぜユキちゃんががんばっているかといえば、家人の再侵入を防ぐ思いがあるからです。狭い家でどれだけ自分の空間を確保することができるかどうかは、ぬいぐるみさんも再動員する必死さ、懸命さによるのです。

 着るものは買わないのが一番ですね。
 ゆえに、買ったらずーっと着る。穴が開いても着る。
 お気に入りのイッセイミヤケのロングコートは立てた襟を簡単にとめられるボタンが付いているので吹雪にも強くて、かれこれ20年近く着ています。いたんだ裏地は生地を替え、すり切れた袖は短くし、毛玉をとれば着られます。コートに添えたアクアスキュータムのマフラーはロンドンで買ってからそろそろ30年になります。
 で、穴の開いた靴下も、かがんでもらえば立派に使えます。うれしそうにはいて出かけるのを家人はいやがりますが。

 そうはいってもねえ、この豊かな時代。向田邦子さんのエッセイ集『無名仮名人名簿』に登場する、広告の紙で「洟をかむ」戦前のお母さんにはかないません。
 向田さんは「母は、というより当時の日本の女は、もしかしたら、みなあのように節約(しまつ)だったのかも知れない。(後略)」と書いています。

 ともあれシマツに暮して、それを理由に遊ぶ。山の道具を新調する。旅に出る。
 そんな春が近づいています。フフフ・・・。
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# by waimo-dada | 2013-03-16 01:25 | ライフスタイル

キョンキョンからユーミンの旅

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 2月は光の春。鎌倉から新潟まで旅をした。
 旅のテーマは“キョンキョンからユーミンへ”。

 小泉今日子主演のテレビドラマ「最期から二番目の恋」の舞台になった江ノ電の極楽寺駅をスタートして、鎌倉文学館までゆっくり歩く。
 北海道にくらべて風景の寸法が小さいせいか、のんびり歩いても町の景色がずんずん変わる。お寺の先に材木海岸が見え、坂を下り、大勢の観光客で混み合う長谷の界隈をすぎれば静かな住宅地。文学館に上がる石畳の道は木々のしつらえも美しく、清楚な湿度が心地よい。
 聖バレンタインのシーズンを迎えた文学館では、入館するとすぐに執事のような人から小説の一節を題材にしたくじが渡される。ここに来さえすれば愛らしいおみくじがだれにも届く仕組みだ。恋人のいない人はもちろん失恋した人にも当たる。やりますね、鎌倉文学館。できれば愛人とそっと行かれるとよいでしょう。
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 東京で渋谷BUNKAMURAの「白隠展」と森美術館の「合田誠展」をチェック。
 宿は東京ステーションホテル。むかし、東京ブルーノートでミシェル・ペトルチアーニを聴いたときに使った渋いホテルはいま様変わりして、昭和はロングレールの向こうにすぎ去った。
 鉄道好きの人にはドームサイトの部屋がお薦めだ。人生の朝のひとこまが見える。美しく整った通勤者たちの流れは少しもせつなくない。それどころか、あまりにきれいで、この国の人たちのいまでは古典的な朝の風景に嫉妬するほどだ。

 次の宿は群馬の山奥の法師温泉。ここは明治、大正、昭和をしっかりとどめている。歌人の与謝野晶子さんや国鉄のフルムーンキャンペーンで同世代の記憶に残る高峰三枝子さんがひょっこり現れそうで、経営者と従業員のみなさんに感謝。

 強風がやんだ朝、わたしたちが雇ったタクシードライバーは山の斜面にへばりついた集落と旧い街道をたくみにつないで群馬県と新潟県の国境(くにざかい)を越えた。
 今回の旅の一番の目的である苗場スキー場の松任谷由実がそこまでやってきた。
 一度は観たかったコンサート「SURF & SNOW in Naeba」をお世話していただいた。
 黄色信号と赤信号ばかりだった人生にありがたいことが起きようとしていた。
 それだけで十分にうれしいのに、ユーミンの仕事の現場に会うことができた。
 音楽と人をつなぐ関係者に大感謝。

 ユーミンは夜9時半から12時ちょうどまでぶっ通しで歌い、踊り、語った。
 永遠の叙情歌手にして疾風怒濤のロックンローラー、2013年2月のいま59歳。
 音楽ソフトだけではわからないその人のいまをまざまざと見ることができるライブ。
 駆けつけるわたしたちもまたライブだ。
 星のようにかがやくひとりの孤独と米粒みたいな無数の孤独が、1年に1回、どこからともなく集まって壮大な夢を見る。
 苗場でのコンサートは33回目だという。

 「駆けていかなくちゃ」
 舞台の上でちいさく独り言のように語った一瞬に松任谷由実の今が見えたように思う。
 世の老人たちよ、
 チェーホフの三人姉妹の後継者たちよ、
 生きていかなくちゃ。
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# by waimo-dada | 2013-02-28 00:02 | アートな日々