N爺の藻岩山麓通信


札幌・藻岩山麓を基地に旅するN爺のブログです(写真は原始ヶ原から富良野岳)
by waimo-dada

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林間学校に行けますか(1)

 もうじき「高齢者」です。
 わたしの小学校の同級生の半分は、2012年9月末に公式の高齢者となりました。公式に、です。みな、日本国からもう逃げられません。働かないでも食べていけるから。巧妙なやり方で捨てられる可能性はこの先ゼロではないけれど。
 さて。あんなにかわいかった群馬県大胡(おおご)町(現前橋市)大字大胡の木村のタイコちゃんも◯◯◯のイネコちゃんも、生きていればみんなきれいなおばあさん。世の中は本当にそんなことになっているのだろうか。信じられない。

 あの時代、1950年代の後半。「お前たちは揺り籠から墓場まで競争だ」といった教師がいたそうだが、幸いなことにわたしが会った教師はみなのんびりとしていて実直で、そんな理屈を口にするほどバカではなかった。まして田舎生まれのわたしは揺り籠なんて高級品を見たこともないから、リアリティのない言葉を吐く赤シャツ先生などがいたものなら、朝早い教壇に、清楚な青ガエルの一匹も竹籠にいれて進呈していたろう。
 日本国が戦争に負けて10年。1955年秋、今日から完全給食ですと華々しくうたわれて登場した学校給食のスターは、戦勝国アメリカからとどいた豚の餌用スキムミルク。厚紙のドラム缶で運ばれてきた。元占領軍のアメリカ兵から見ればわたしたちは豚の子同然。そんな身分なのにわたしたちはいじめも競争もほぼ関係なく育った。飢えたことはなく、心さみしくもなかった。いつも四季の祭りが身近にあった。親と世間に抱かれて育ててもらった幸せな少年時代。小さな田舎の学校なのに子どもはあふれるようにいて、教師も子どももその日を働き、遊ぶのに精一杯だった。

 そこはオキナワでもヒロシマでもナガサキでもなく、3月10日の大空襲の記憶をとどめるトウキョウでもなかった。戦争のことはほとんど何も知らない。聞かされてもいない。母方の伯母の夫が南方のガダルカナル島で亡くなったとわたしが知るのは先のことだ。子どもたちは古い城下町の名を残す町の路地から小川や田んぼで遊ぶのに忙しく、いじめるヒマも塾に行くヒマもない。そろばん塾はあっても学習塾なんてない。いじめも塾もないうえに戦争に行かないですむのだから、明治維新のあとで日本国に生まれた男子にとって最良の時代、地域のひとつだったといえるかもしれない。

 というふうに振り返ると、なんだか、いい時代、いい田舎だったね。
 そして、目に見えない水平線的な競争心がわたしたちの境遇のなかに、もっというなら時代のなかにあった。みんなでがんばって上に行こう。豊かさというものを手にしようと。フツーにひとしく貧乏だったので、親と子の共同戦線があっさり成立していたのかもしれない。
 問題はそれからだった。子どもたちは期待を口にしない親の期待を背中で感じていた。どの子も、いい学校に進むか、早く独り立ちしなければならないと考えていた。中学を出たら就職するという選択肢がなんの疑問もなくあった。実際、就職する子はいたし、自衛隊の学校に行く子もいた。自衛隊の学校は学費がいらないどころか給料をもらえるので入るのがむずかしいという話だった。

 わたしは新設されてまもない国立の高等工業専門学校(高専)に進んだ。普通高校や大学に行かないで独り立ちできるすばらしい人生コースだと親と周囲は歓迎したが、受験勉強の向こうには海原のような将来が開けていると素朴に考えていたわたしにはいくらか酷な結末、青春のはじまりとなった。相談できる人はどこにもいない。むずかしい学校に進学できたということだけがひとりの少年の自負を支えた。人間ってひとりで生きていくのだな、と初めて実感した。

 学校にいた時代をふりかえれば、ざっとこんなあんばい。
 ここでやっと主題が登場する。いいなあ、林間学校。
 公式に高齢者になるというありがたい年齢になって、いや、そうなったからますます昔のあの日に行くことができたならと思いが強くなるのは、なぜだろう。実現できなかったから、疑似体験でいいからあの日に戻って林間学校の旅に出たいと思うからか。
 日本全国がひとしく貧乏ではないということをうすうす知っていた自分がいた。それを教えてくれたのは林間学校自身であったが、遠い都会から子ども向けの月刊誌を経由して伝わってくる「リンカンガッコウ」というすてきな、つまり大学生になってから知る言葉でいえばプチブル(プチ・ブルジョア=小市民)の匂いのする音を、わたしは好きだった。
  そのとき、わたしは子どもなりにひとりで生きていくと決めたらしい。いつかは郷里を離れ、いい匂いのする方向に歩こうと。
 
by waimo-dada | 2012-10-11 02:32 | ライフスタイル